
チラシを毎月1,000枚。昔はそれで十分だったのに、ある日から反応が鈍くなる。
一方でWebはアクセスがあるのに、問い合わせが増えない。——この相談、現場では本当によく起きます。
今回のバイオリン教室もまさにそれでした。
ただ、違ったのは「20年分の現場の知恵」という、とんでもなく強い材料をすでに持っていたこと。だからこそ、短時間のヒアリングでも「どこが詰まっているか」が、かなり具体的に見えました。
1. まず経営者向けに結論だけ:伸びない理由は“集客不足”じゃなく“導線の詰まり”だった
課題
月1,000枚のチラシ反応が落ち、Webは「ページを開いて数秒で閉じてしまう人の割合」が80%超。流入はあるのに“問い合わせに変わらない”。しかも先生が一人で回していて、これ以上タスクを積めない状態でした。
ここで大事なのは、「Webに人は来ている」のに「行動しない」点です。
つまり、広告を増やす前に、まず入口から体験申込までの“詰まり”を取るのが先でした。
打ち手(3つ)
- 「はじめてのバイオリンガイド」で、検討中の親子の不安を先に解消
→ まず興味を持ってもらう接点作り(いきなり申込を迫らない) - 生徒の成長を可視化して、「続けられそう」が伝わる情報発信に組み替え
→ うまさよりも「変化」を見せる - 8ヶ月の定着ロードマップで、一人運営でも止まらない運用に整理
→ 新しい仕事を増やさず、レッスンを“資産”に変える設計
※改善の相談で一番多い落とし穴は、「じゃあ、これもやりましょう」と足し算してしまうことです。
一人運営の現場は、足した瞬間に回らなくなります。だから最初にやるべきは、気合いじゃなくて“引き算”です。
現時点で確認できた変化(提案から1ヶ月)
- 無料ガイド経由で「体験に進む」動きが出始めた
- SNS経由で、開始時期・上達速度など具体的な質問が届き始めた(=検討が深い)
- 地域連携(楽器店・イベント)は“次の一手”として企画準備に入った
- Webの役割が「チラシの補助」から、新規獲得の入口へ移り始めた
再現手順(最小構成)
- 過去のレッスンで繰り返し出た質問を20個メモする
- 「親が不安になる順」に10個だけ並べる(ここ、削るのが一番効きます)
- 10個を小冊子(無料ガイド)にしてサイトに設置(フォーム付き)
- 週2回、成長の瞬間だけを短く投稿(長文は“読む宿題”になりがち)
- 8ヶ月計画を作り、1回のレッスンから“素材を3つ抜く”運用にする
2. なぜ「来ても帰る」になっていたのか:チラシ向けサイトは“初見客”に不親切になりやすい

初回ヒアリングで私が見るのは、派手な施策ではなく導線の詰まりです。
この教室は20年続いている。つまり、現場には「勝ちパターン」と「つまずきパターン」が山ほどある。
だから30分話せば、どこがボトルネックかはかなりの精度で絞れます。
実際に確認したのは、たとえばこんなポイントです。
- どんな人が多いか(親子/社会人/再開組など)
- 体験前に不安になる論点は何か
- 申し込みの決め手/見送り理由は何か
- 過去の問い合わせ内容(頻出質問)
- 既存サイトの役割が何になっているか(本当に“獲得媒体”か)
そして、このケースの核心はここでした。
サイトが「チラシを見た人の確認用」になっていた。
チラシ経由の人にはそれで十分でも、検索やSNSで初めて来た人には情報の“出し順”が違うんです。
「ページを開いて数秒で閉じてしまう人の割合」が80%を超えるとき、たいていは文章量よりも順番と摩擦に問題があります。現場の丁寧さが、逆に“読む負担”になってしまうことも多い。
このケースでも影響が大きかった“よくある不備”
- スマホで見たとき、次に何をすればいいか分からない
- 体験申込ボタンが小さくて押しづらい
- 下までスクロールしないと連絡手段が出てこない
- 連絡先が画像で、タップして電話できない
- 「場所」と「通い方」が一瞬で掴めない
- 例えば、スマホで見たときに教室の場所がどこに書いてあるか分からない
- 地図がページ下の方に埋もれていて、「結局どこ?」のまま閉じられる
- 入口で知りたい“不安の回収”が後回し
- 料金が「要問合せ」だけで、相場感が持てない
- 楽器(レンタル/購入/サイズ)の判断材料がない
- 「どれくらいで弾けるようになるか」の現実ラインがない
- フォームが重い
- 入力項目が多い、必須が多い、確認画面が多い
- 返信までの目安がなく、「送って大丈夫かな」が残る
ここで起きているのは、単純です。
初めて来た人は、熱量がまだ低い。だから“判断の材料”が揃う前に、面倒が来ると帰ります。
この状態で文章を増やすと、だいたい悪化します。読む側は忙しいので、説明の追加より判断しやすい形への整備が先です。
3. 施策:新しいことは何もしない。今ある「教える力」を“迷わず選べる形”に整えただけ
ツール名は脇役です。経営として効くのは、結局ここです。
問い合わせ前の「不確実性」を減らす。
そのために、20年分の現場知を「相手が判断できる形」に翻訳しました。
施策1:はじめてのバイオリンガイド(“接点作り”の入口をひとつ増やす)
何をやったか
20年の現場で繰り返し出てきた質問を、初心者の不安に答える小冊子(無料ガイド)に変換して、サイトに置きました。
ここで言う「接点作り」は、いわゆるリード獲得のことです。でも言葉が強いので噛み砕くと、“まず興味を持ってもらい、連絡できる関係を作る”という意味です。
体験申込はハードルが高い。
だからいきなり申し込みを求めず、「不安が晴れる情報」を先に渡して、自然に次の会話につなげる。これだけで動きが変わります。
入れる内容(“親が不安になる順”で)
- 費用の考え方(相場感・追加費用の注意点)
- 楽器選び(レンタル/購入、サイズ、最初の落とし穴)
- 練習時間の目安と、家庭で揉めないルール
- 最初の3ヶ月で起きやすい“つまずき”と対処
- 上達が見えるまでの期間(現実的なライン)
- 教室選びチェックリスト(比較の軸)
なぜ効くか
体験申込が止まる理由は、ほぼ「不安が未解消」だからです。
無料ガイドは売り込みではありません。判断材料の前渡しです。
これを入れると、問い合わせの質が変わります。
「迷っています」から、「体験したいのですが、○曜日は空いていますか」へ。
こちらが押さなくても、相手が勝手に前に進みます。ここが強い。
施策2:SNSは“上達理論”より“成長の瞬間”だけに絞る(続く形にする)
何をやったか
発信テーマを、テクニック解説ではなく“成長の瞬間”に固定しました。
SNS運用って、気合いで頑張ると必ず止まります。止まる原因は才能ではなく、テーマが広すぎて毎回悩むことです。
だから、型を決める。
投稿の型(例)
- 初めて音が出た
- 初めて曲がつながった
- 姿勢が変わった
- 発表会で弾き切った
- 親子の練習が揉めなくなった(これは本当に刺さります)
写真+10秒動画+一言コメント。これで十分です。
なぜ効くか
親が買っているのは楽器ではなく、子ども(または本人)の変化です。
上達は数字で見せにくい。でも、変化は見せられる。
そして、ここが現場感なんですが——
長文の上達理論より、「この教室だと続いた」という事実のほうが圧倒的に強い。SNSは結局そこに収束します。
施策3:8ヶ月の定着ロードマップ(“作業を増やさず”回る運用だけ残す)
何をやったか
「全部やる」を捨てて、続く運用だけを残す設計にしました。
一人運営で勝つには、根性より先にタスク設計です。
特に意識したのはこれです。
新しい仕事を増やすのではなく、既存のレッスンを“資産”に変える。
8ヶ月の設計(例)
- 1–2ヶ月:基盤
- 無料ガイド作成(週2時間)
- サイト改善(月4時間)
- 3–4ヶ月:発信をルーティン化
- 週2回の投稿(1回30分)
- 短い演奏動画を週1回(任意・短くてOK)
- 5–6ヶ月:継続の仕組み
- 保護者向けの相談導線(相談が溜まらない)
- 小さな発表の場(継続理由が増える)
- 7–8ヶ月:地域連携
- 地域イベント
- 楽器店との連携(初心者の“最初の壁”を共同で越える)
なぜ効くか
現場が崩れるパターンはだいたい同じです。
やることが増えすぎて、続かない。
だから最初に決めるのは「やらないこと」。
そして、レッスンから素材を抜いて外に出す。これができると、集客は“追加業務”ではなく“通常業務の副産物”になります。
4. 数字の話:投資した時間と労力が、どう実を結ぶかのシミュレーションを置く
経営判断に必要なのは、「確定した事実」と「見立て(試算)」を混ぜないことです。
この章は、ROIの算出根拠——と言いたいところですが、現場の言葉に直すなら、“投資した時間と労力が、どう実を結ぶかのシミュレーション”です。
当てにいくためじゃない。
どこが詰まっているかを早く見つけるための、仮説の地図です。
まず、確定している事実
- 改善前のWebの「ページを開いて数秒で閉じてしまう人の割合」:80%超
- 施策開始後1ヶ月で、無料ガイド経由で体験に進む動きが発生
試算:問い合わせ→体験→入会(レンジで置く)
A. 無料ガイド導線(想定レンジ)
- ガイドDL:20〜60件/月
- DL→体験申込:5〜15% → 1〜9件/月
- 体験→入会:30〜60% → 0.3〜5.4名/月
B. 成長可視化(SNS)導線(想定レンジ)
- 投稿からの問い合わせ:2〜8件/月
- 問い合わせ→体験:20〜40% → 0.4〜3.2件/月
- 体験→入会:30〜60% → 0.1〜1.9名/月
期待値(中間値で置く)
- 無料ガイド:DL40 × 体験率10% × 入会率45% = 1.8名/月
- SNS:問合せ5 × 体験率30% × 入会率45% = 0.7名/月
- 合計:約2.5名/月(≒2〜3名)
ここでのポイントは、「当たるかどうか」じゃありません。
DLは出ているのに体験が少ないならフォームや導線。体験は多いのに入会が少ないなら体験設計や期待値調整。
詰まりの場所が数字で見えることが価値です。
ROIの見方(LTVベースで、やり過ぎない)
ROIをちゃんと語るなら、まずLTV(生徒1人の価値)を置きます。
- LTV(生徒1人の価値)= 月謝 × 平均継続月数
(入会金・教材費等があれば上乗せ。変動費があるなら差し引き)
例として、
- 月謝:1万円
- 平均継続:18ヶ月
なら、 - LTV:18万円/人
仮に新規入会が月2名増えるなら、
- 追加LTV:36万円分が将来に積み上がるイメージ
一方、運用コスト(時間)はこう抑えます。
- ガイド作成:週2時間(初期)
- 投稿:週2回 × 30分(継続)
- サイト改善:月4時間(継続)
ここが崩れて忙しさが増えた瞬間に、だいたい運用が止まります。
だから“成果”と同じくらい、“続く設計”を重視します。
5. 次の一手:一人運営でも回る「着手の順番」はこれでいい

同様の相談で、優先順位は原則この順です。
- 来てすぐ帰る状態を直す(不安の回収と、スマホの摩擦を取る)
- 接点作りの入口を作る(無料ガイド等)
- 発信テーマを固定化する(止まらない運用にする)
- 地域連携は最後(効くが工数が読みにくい。基盤ができてから)
「チラシが効かない」「Webがあるが反応がない」状態は、施策不足というより導線設計不足のことが多いです。
新しい魔法は要りません。
現場にある情報——20年分の経験、頻出質問、つまずきポイント、継続のコツ——を、相手が判断できる形に整えるだけ。ここが経営として一番堅い。
初回30分で状況整理をするなら、見るのは“派手さ”ではなく“詰まり”です
「30分で解決」みたいな話ではありません。
ただ、20年続く教室には、すでに“答えの材料”が揃っていることがほとんどです。だから短時間でも、詰まりの場所をかなり具体的に言語化できます。
整理する観点はこのあたりです。
- 現場の「資産」(FAQ・成功パターン・継続理由)は何か
- 詰まりはどこか(入口/不安解消/申込の摩擦/体験後の決め手)
- 一人運営でも回る“最小の打ち手”は何か
- 1ヶ月目に見るべき指標はどれか(DL数/体験率/入会率のどこが落ちているか)
売り込みの場ではなく、経営判断の材料を揃える場として設計する。
このスタンスで進めるのが、結局いちばん失敗しません。

